第十一章 終局

「もうこれで最後にしないか?」
「…」
「これ以上、あいつを裏切れない」
「…」
「いつかのこと…。覚えてるか?」
「いつかのこと?」
「俺とお前と姉貴とあいつで偶然4人で歩いた時だよ。」
「…うん。」
「あの時、あいつ俺に一言いってくれたんだ…」
「…何を?」
「…おめでとう。ってな」
「…」
「あいつの言葉が…離れない。」
「そうだね。…シンは優しいもん。」
「だからお前も好きになったんだよな…。俺と別れてもあいつを選んだんだよな」
「…うん」

 

ホテルのベッドの上、タツヤと玲香はそれぞれ考えを巡らしていた。
二人の頭の中にはここにはいない共通の一人だけが存在していた。

 

「わかった。タッちゃん。今日で終わりね。」
「すまなかったな。今まで…我儘ばかり…」
「ううん。お互い様だから…」

 

不遇な3人。それは三者三様の性癖が生んだ偶然とも必然とも言える。
SEXに興味がないもの
SEXでしか喜びを得られないもの
姉の面影をひたすら追って女性を姉にかぶせるもの。
それぞれの不幸がリンクし、切断され、それぞれの終局を迎えようとしていた。

 

タツヤの場合
「姉貴ただいま」
家の玄関に入った瞬間、目に飛び込んだ内容を状況を理解するのに数秒を費やした。
滅茶苦茶。ただそれだけだった。
「あ、姉貴?」
玄関から土足で部屋に入ったが、何もかもが違っていた。
すべてが、破壊されていた。
「ど、どこだ」
俺の全身に嫌な汗が噴き出した。
「うそだろ。あいつは姉貴が刺して確かに意識不明だったはず…」
居間には血が滴っている。すでに乾いていた。
俺は半ば半狂乱になりながら、家中を探しまくった。
一度探した場所を何往復もしながら…。
一通の手紙が封をきられて落ちていた。
「な、なんで…」
風呂を開けた途端生臭さと鉄が混ざり合った匂いが充満していた。
「ア…姉貴ーーーーー!!」
俺は天に向かって叫んだ。生まれて初めて…。
そしてその場で崩れ落ちた。

 

ユウタと玲香の場合
「よぉタケちゃん」
「…ユウタか?久しぶりだな」
電話の声は、以前パチスロで大学を退学した清水だった。

 

「なんだ。久しぶりだってのに、元気がないなぁ」
「そういうお前はどうなんだ。なんか声が荒いぞ」
「ははは。なんだバレたか。今お取込み中なんだよ」
「…」
「今日は何の日だ?タケちゃん?」
「…」
「学園のアイドルのバースデーだよな。そう。お前の彼女だよ」
「…そうか。お前」
「ははは。察しがいいねぇ。…うっ」
「…」
「…シ…ン」
「…」
「…ははは。さすがはタケちゃんの彼女だ。ごちそう様でした。」
「…」
「なんだよ。黙ってたらつまんねぇーぞ。タケちゃん」
「何しに電話してきたんだ?」
「はぁ。てめえ。この状況わかってんのか?」
「…」
「今から桟橋の工場跡に来いよ。そこで使用済みを返してやるよ」
「…そうか。やはり…お前だったか」
「ふっ。やっとわかったか。そうだよ。以前お前に邪魔されたおかけで未遂だったが…。まぁ今回は頂けたけどな。」

 

俺は電話を切ると、一息ついてから拳にテーピングをまきはじめた。

 

「やっと来たか…待ちくたびれたぜぇ。タケちゃん」
廃工場には、清水と3人の友人。いや部下がいた。
3人の部下は自分自身や道具を使って、あらゆる穴をふさいでいた。
玲香の穴を…。
「わりいな。タケちゃん。こいつらも我慢ができなくなっちまって。俺の歯止めもきかねぇーよ。」
3人はそれぞれ見覚えがあった。以前同じ道場で。

 

「たけさん。ご無沙汰っす。」
「いい女っすね。」
「気持ちよかったすよ」
3人が3人とも俺を見た途端、チャックを閉めながらへらへら笑っていた。
「たけさんがこの女と絡んでないって。まじっすか?」
「チェリーボーイって訳っすか。」
「いくら格闘技が強くても、残念っす。ひゃはっ」

 

俺は黙っていた。何も言わずただ一人ユウタを見ていた。
「おいおい、お前ら。あまりタケちゃんを馬鹿にすんなよ。俺のマブだぜ」
「ひゃは。すんませんユウタさん。忘れてましたわ」
「たけちゃん。俺はお前を恨んだぜ。玲香を手に入れ、大会では常にトップ。俺が欲しいものをお前が全部かっさらっていったんだよ。」
「…」
「まぁ。いいさ。今日は試合じゃねえ。実戦だぜ。くくく」
ユウタ以下4人がケンシロウばりに指をポキポキならしながら、にじり寄ってきた。
「そうか…。ならばお前ら4人全員死ぬ覚悟があるってことだな」
俺は静かに呟いた。

 

「シン…」
俺は無残な玲香の姿には目を向けずに4人に向かって照準を定めた。

 

最終章 直下型人生