第七章 明暗

「さて。今日も抜いてやる…」
先日、CR-V攻略の破壊力を目の当たりにした俺は、念の為、別のホールに出向いた。
どのホールでも関係ない。ましてや設定など一切不問なのだ。
そのホールは電車で3駅ほどのところにあるホールだ。
確か苅谷と何度か来たことがあったと思う。
そう、苅谷のホームグラウンドだ。

 

ホール「ブラックローズ」に入った瞬間、何かの違和感が襲った。

 

「この「激獣キング」はすでに対処済みです」
張り紙がホールの至る所で目についた。
「激獣キング」このCR-Vの電流攻略が可能なスロット台である。

 

そして、張り紙の下には何枚かの写真が貼られていた。
この人を見たら即ホール関係者にご連絡ください。
ご協力いただいた方に陳謝を差し上げます。

 

数枚の写真の中に紛れもない「苅谷」が写っていた。
はっきりと顔が写っている。そして手首には、俺と同じ「時計」が…。

 

俺は素早く手をポケットに突っ込んで、トイレに駆け込んだ。
個室に入ると、すぐにCR-Vを外した。

 

「う、うそだろ?」
すぐにホールに出て、近くの別のホールを確認した。
ここでもすでに「激獣キング」は対策済みだった。
一瞬目の前が真っ暗になって、倒れこみそうになるのを踏ん張った。

 

今日一日で約40件のホールを回ったが、一夜にしてすべてのホールから
CR-Vの電流攻略が抹消された。
200万の攻略法が…。そう。たった10万勝っただけで利用できなくなったのだ。
確実な大損だった。学生の身としては死活問題である。
途方に暮れた帰り道に俺の携帯の着メロが騒ぎ出した。
「タケちゃん。久しぶり」
「カリちゃん。」
「最近スロットどう?勝ててる?」
「…」
「そうか。調子悪そうだな。ははは」
「何かおかしいか?」
「おいおい。別に馬鹿にしてる訳じゃないんだよ」
「…で。何か用か?」
「いや。なんか機嫌悪そうだし。また今度な」
「…」
「何だよ。しかとかよ」
「…ホールでお前の写真が貼られてたけど…」
「ああ。タケちゃん知ってたんだ」
「まずいんじゃないか」
「まあね。でももう十分抜いたしな」
「…抜いた?」
「ははは。射精じゃないよ。要は儲けたってことだよ」
どうだっていい苅谷の解説が俺の神経を逆立てる。
「…攻略法でか?」
「…ふーん。さすがタケちゃんだ」
「そうなんだぁ。みんな嘘っぱちだろ。どうせ」
「いや。そうでもなかったんだ。実はもう使えないけど…。とりあえず1本程抜けたんだよね」
「1本?100万か?」
「ざーんねんでしたぁぁぁ。その上でーす」
耐えがたくなってきた。
「いやぁタケちゃんにも教えようかと思った矢先に対策されちゃった。」
「CR-Vだろ。」
「へ?」
「もう二度とパチスロできないぞ。きっと。」
「そうだなぁ。もう正直いいや。」
「それで満足なのか。」
「所詮パチスロはプロセスに過ぎないってこと。要は最後に金を手にしたものが勝者だ。違うか?」
苅谷はすでに完全に上から目線で話していた。
「パチスロを楽しむ。懐かしいわ。だけどタケちゃん。所詮そんな考えで打っている状況だと負け犬確定だぜ。」
俺の怒りはほぼ頂点に達した。苅谷にここまで切れるのは初めてだった。
「言いたいことはそれだけだな。じゃ。」
何も言わさずに携帯を切り、電源を切った。

 

そして、帰宅の途中だった道をまたホールに引き返した。

 

ブラックローズの扉をくぐり、店員を呼びとめた。
「あのー。この人自分の知り合いなんですが…」

 

第八章 告白